朝。いつも通り、健の家の前に立つ。チャイムを鳴らすと、慌しい音がして、慣れ親しんだ顔がドアから
ひょっこり顔を出した。いつもくるくるしてる真ん丸い目は、眠そうに細くなってるし、茶色い髪はばさ
ばさのまま。

「健、行くよ?」

「ちょっと待ってぇ〜……あと5分寝かせて〜…」

「駄目」

私は健の腕を掴んで、家の中から引き摺り出す。だらけたままの制服と、よぼよぼの鞄を身につけて、健
は不満そうに私を睨んだ。

「ひでぇよぉ……酷すぎるよぉ…」

「健が来てくれないと、私が遅刻するの!おばさんにお願いされてるんだから、ちゃんと来てっ!」

少し強い口調で言うと、健は少し眉を寄せて、鞄を持ち直した。

「はいはい。わかりましたよぉ」

健とは、中学校からの付き合いで。私の隣の家に健が引っ越して来たのがはじまり。フレンドリーな健の
お父さんとお母さんと、私のお父さんとお母さんは、すぐに打ち解けて。同い年の私と健も、毎日のよう
に顔を合わせてれば、仲良くなるのもしょうがない。でも、健のことは嫌いじゃないけど。結構良い奴だ
し。高校まで一緒になっちゃったんだから、仲良くない方がおかしいし。おかげで健のお母さんから、『健
は朝弱いから、迎えにに来てあげて〜』なんて頼まれるようになっちゃったし。だから、毎朝健と登校。
近くの駅から電車に乗って、10分ぐらいなんだけど。でも、健はよく喋るし、何より明るいから、別に嫌
じゃない。変に女友達作って一緒に行って、楽しくなかったら嫌だから、とりあえず健と一緒にいる。ち
なみに、クラスも一緒で。腐れ縁なのかもしれない。私と健って。


教室に入ると、待ち構えていたように、剛が私と健を呼ぶ。

「てめぇら、遅ぇんだよ」

「珍っずらしぃ〜。剛が俺達より早ぇ」

「るせぇよ、バカ健」

剛とは、高校に入ってから仲良くなった。健と剛はすぐに打ち解けちゃって、そこに私も紛れちゃってる
感じなんだけど。剛は一言で言うと、不良。髪の毛は金金だし、ピアスしてるし、だらしないし、おまけ
に口が悪い。喧嘩だってよくしてる。生傷はしょっちゅう。でもだからって、悪ぶってるわけでもなくて。
私と健には、すっごく親密に付き合ってくれてる。

「3、4校時、女子家庭科だろ?、何か差し入れろよな」

剛が嬉しそうに笑って、私に頼み込む。こんな笑顔で頼まれたら、断るに断れないんだけどね。

「良いよ。でも味は保障しないけどね?」

、俺も俺も」

横から健が、自分の存在も主張する。もちろん、と軽く受け流して、私は携帯の電源を切った。


「うまかったなぁ〜…のクッキー」

帰り道。余韻に浸ってる剛と健が、嬉しそうに呟く。

「お粗末様です」

苦笑いしてみせると、健が私を見下ろして来た。

「ね、ね。今度、また作ってよ」

「てめぇ、健、抜け駆けだぞ!」

笑顔の健に、剛が眉を寄せる。にこにこする健に、私は思わず口走ってしまった。

「いいよ」


だからこそ今、私はここにいる。

「なぁなぁっ、クッキーまだぁ?」

食卓の椅子から、健の声が響く。私は台所でクッキー作りに励んでる。あの時約束しちゃったから、せっ
かくの日曜日、健の家に呼び出されて。黙々と作ってるのが、健のためだけのクッキー。

「はいはい、ちょっと待ってて〜!」

私はオーブンにプレートを入れながら、答える。タイマーで時間を計って、後片付けをしていると、健が
ひょっこり顔を覗かせた。

「出来た?」

「まだ。でも、もう焼いてるからあとちょっと」

よっぽど楽しみにしてくれてるのか、すっごく笑顔で。思わず頬が緩む。

「座ってて良いよ」

「じゃあ、も一緒に座ってよーよ」

「でも、私は後片付けが…」

「そんなの後で良いよ」

健に無理矢理引っ張られて、食卓に座らされる。向かい側には健が座る。そういえば健の家に来たのって、
久しぶりかも。健の私服も、こうやってまじまじ見るのって久しぶりだし。ここに座ったのも、中学生の
時以来で。凄く懐かしい感じがする。

「あんがとね、

突然健に話しかけられて、私は健を見上げる。健は机に頬杖をついて、こっちを見てて。いつもの微笑み
を浮かべてる。

「ん?」

聞き返すと、健は机の上に置いてあったキーホルダーを弄りながら呟いた。

「嬉しかったよ、今日来てくれて」

健の言葉に、私は何も言えなかった。ただ、頭の奥がすんごく熱くなってた。その夜は、なかなか寝つけ
なかった。


次の朝。いつもと同じく、健の家の前に立つ。チャイムを鳴らすと、またばたばたと慌しい音がして、健
が飛び出して来る。

「おはよ、健」

「おはよぉ……」

寝ぼけ眼を擦りながら、駅に向かう。でも、何かいつもと違った。話が途切れる。沈黙が続いて、健が話
しかけて来る。でも、私から話題を出せなくて。何か気まずいまま、電車が着いた。

「うわぁ…人多いね」

「はぐれんなよ?」

健が苦笑いして言う。ちょっとバカにされてるような気がするけど、とりあえず満員電車に乗りこむ。電
車が出発すると、もうすっごい人で。健と話すどころじゃなくなる。必死に吊り革にしがみ付いてるだけ
で。周りは人ばっかり。暑苦しいし、もう嫌だ。

「……っ!?」

はっとして体が固まる。寒気が走る。後ろを睨むと、そこにはサラリーマン風のスーツを着た男がいて。
痴漢だ。でも、どうしようもない。どうすればいいんだろう。わかんない。恐い。誰か助けて。誰か気付
いて。でも、誰も気付いてくれない。叫べば良いのか、何をすれば良いのかわからなかった。こんなこと、
はじめてだった。私の手に力がこもったその時。

「てめぇ、何してんだよ」

声が聞こえた。それから手が離れて行って。周りが一瞬で静かになる。振り向くと、健が痴漢の手首を掴
んで睨みつけてて。

「サツに突き出すかんな」

健は次の駅で、私とその痴漢を下ろした。駅員に痴漢を引き取って貰ってる。事務所の椅子に座らせても
らって、落ちつくまでここにいて、って言われて、健と2人っきりになる。まだ手が震えてる。恐かった。
ふらふらする。眩暈がしてる。耳鳴りがしてる。頭が重い。と、突然目の前に健の顔が現れる。

「大丈夫?」

健が私の前にしゃがみ込んで、私を見上げてる。その顔はとても心配そうで。震える手をぎゅって握り締
めてくれて。

「ガッコに連絡するから。開放してくれたら、ガッコ行って保健室行こう?」

痴漢から助けてくれた時、嬉しかった。単に嬉しかったんじゃなくって。胸が凄く熱くなった。


学校に着くと、健は直接私を保健室に連れて行ってくれた。そこには誰も居なくて。健は私をベッドに寝
かせて、体温計を持って来る。

、どこも痛くない?」

軽く頷くと、健はほっとしたような表情で笑った。熱もなくて、大丈夫みたい。それから、私は平気だか
らって言ったんだけど、健がしばらく寝てろって言うから、渋々ベッドに横になってた。右手を顔の前に
出して、さっきのことを考える。健、私の手握っててくれたんだよね…案外優しいじゃん。でも。優しい
とか、そんな言葉で片付けられるような感じじゃない。ずっとドキドキしてる。健が助けてくれてから。
あの時、すっごく嬉しかった。あの気持ち、何だったんだろう…。


それから、心配した剛も来てくれて。それからの授業にはちゃんと出た。でも、頭ん中はぼーっとしてて。
何も頭に入らなかった。


次の日。今日もまた、健を起こしに行く。でも、今日は何か違った。緊張する。チャイムを押すだけなの
に。それが出来なくて。5分ぐらい躊躇ってる。意を決して震える指でチャイムを押すと、またどたばた
暴れる音がして、健が飛び出して来る。

「おはよ!っ!!」

寝起きでばさばさの頭に、着れてない制服。でも、私を見てにこって笑う。

「もう大丈夫なんだ?」

「う、うん…」

笑って見せると、健は嬉しそうに微笑んで、先を歩いた。

「行こう?」

「うん!」

健の後を少し小走りで追って、隣に並んで学校に向かった。


今日はいつもより楽しかった。健が隣にいるのが嬉しかった。いつものように剛も混ぜて盛りあがってる
と、後ろから肩を叩かれる。振り向くと、そこには茶髪でパーマを当てた、クラスの女の子が笑顔で立っ
ていた。

ちゃん、ちょっと来てくれない?」

「何?」

「相談があるんだけど…」

女の子の言葉に首を傾げて、私はその子に着いて行った。


「あんた、健くんの何なの!?」

あの女の子に押されて、私は地面にしりもちをついた。沢山の女の子に囲まれて、私は泣きそうになった。
あれから裏庭に連れてかれて、私は女の子達に責められた。

「健くんに近づかないでよ!!」

「ウザいの!」

「健くんが迷惑してるって、わかんないの!?」

何で私が責められるのか、わからなかった。でも。私が健といるってことが、気に入らないらしくて。す
っごい見幕で睨まれる。

「二度と健くんに近づかないでよね!!」

女の子に釘を刺されて、私はその場から立ち去った。


それから、健に近づかなかった。そうだ。私がいるから、女の子達は迷惑してたんだ。健のこと、みんな
好きだったんだ。健は心配して私に話しかけてくれたけど、何とか誤魔化した。それからというもの、健
の周りには女の子が群がった。健は苦笑いして話してて。剛は不思議そうに私の傍に寄って来てくれたけ
ど、女の子に何か言われたことは黙ってた。こんなこと言ったら、健意識しちゃうよね。だから。私は次
の日、健を迎えに行かなかった。


1人での登校は寂しかった。いつもの満員電車に乗って、ぽつんとしてて。そういえば私、高校で女友達
作らなかったんだよね。健と剛がいれば、それでいいって思ってたし。でも、健が離れて行ってしまった
ら、もうどうにもならなかったんだ。健がいなければ、剛は絶対に私から離れてっちゃうし。私、1人ぼ
っちなんだ。

「……!!」

突然、寒気が走った。また、痴漢だ。私は自分の掴まってる鉄の棒にしがみ付いた。どうしよう。誰か、
助けて。どうすればいいのか、わかんなくて。目を瞑る。恐いよ、健。私がそう思った瞬間だった。

「何してんだよ、エロオヤジ」

私の体から、手が離れる。振り向くと、そこにいたのは剛だった。…健じゃ、なかった。いかにもヤンキ
ーな剛に、物凄い形相で睨まれて、痴漢はびくっとして、次の駅で逃げるように降りて行った。

「…ったく……」

「ご…ぉ……?」

目を丸くして見上げると、剛はふっと笑った。

「何してんだよ。やべぇと思ったら叫べよ」

剛は、電車反対方向のはずだし、何よりいっつもバイクで来てるから、電車には乗ってないはずなのに。

が心配でさ。何か変だし。健も気にしてたから、こっち来てみた」

そう言って、剛はにっこり笑う。健に助けられた時みたいに、胸が熱くならなかった。ここまで来て、や
っと気付いた。私、健が好きなんだ。そう実感した瞬間に、涙がぽろぽろ零れた。剛がびっくりして、必
死で慰めてくれたけど、止まらなかった。私、どうすればいいんだろ…。


学校に着いて、私は自分の席で顔を伏せた。健は、私の所には来なかった。また、女の子達に囲まれて。
今度は、嬉しそうに笑ってた。私のこと、嫌いになっちゃったのかもしれない。私が無視したりしたから。
だから。

「健、ちょっと来いよ」

女の子の集団に向かって、剛が叫んだ。健はそこから出て来て、剛を見上げてる。

「ん?」

剛は健を手招きして、教室を出て行った。それから少ししてから、教室中に叫び声が響き渡った。

「森田と三宅が裏庭で喧嘩してんぞ!!」

女の子達の悲鳴と、男の子達の声が混ざる。私ははっとして立ち上がってた。止めなきゃ。それ一心で、
教室を駆け出してた。裏庭に行くと、傷だらけの2人が、生徒達に引き離されてた。驚いて健に駆け寄る。

「何してんの!?どうしたの!?」

健を見上げると、健は力なく私を見下ろしてた。

…?」

「健!!」

健と剛の声が重なる。剛はふらつきながら、立ち上がって、健を睨みつけてた。

「てめぇ……後悔しても、しらねぇからな…」

それから、生徒達に支えられて、保健室に向かって歩きはじめる。何があったのかよくわかんなくて、健
を見つめる。

「後悔…?」

「……」

健は唇を噛んで、私を見つめ返す。どきっとして思わず目を反らすと、健は私の頭を撫でた。

「保健室、来てよ」

「あ…ウン……」


ふらつく健と一緒に保健室に向かうと、剛が保健の先生に手当てをしてもらってた。剛は健を睨みつける
と、目を反らす。

「三宅くん、そこの椅子に座ってて」

あなた、手当てしてあげて、と先生に言われて、私は慌てて消毒液を持って来た。保健室の外には女の子
が群がってる。勿論、その子達は私を睨んでるんだろうけど。擦り剥いた傷についた土を丁寧に拭き取っ
て、消毒液を塗る。それから、切れた口元も血を拭き取る。

「ちょっと待っててね」

先生が保健室から出て行く。保健室には私達3人だけで。女の子達は待ち兼ねていたように、保健室に足
を踏み入れようとした。

「てめぇら、入ってくんじゃねぇよ」

でも、その女の子達の行為は、剛の低い声によって遮られた。剛はポケットに手を突っ込んで、女の子達
を舐めるように睨みつけると、保健室のドアに手をかけた。それから、こっちを振り向いて、健を睨みつ
ける。

「健……今度泣かせたら、どうなるかわかってんだろうな…」

「……」

健は剛を見つめて、深く頷いた。剛はそれを見届けると、女の子達を蹴散らして、ドアを勢い良く閉めた。
保健室には、とうとう2人っきりになる。気まずくなって、健に笑顔を見せた。

「手当てしなきゃねっ」



健に引き止められて、心臓が跳ねあがる。私は熱を帯びる顔を隠すように、笑った。

「何?」

「ちゃんと、聞いてよ」

健に真顔で言われて、私の顔から笑顔が消える。どきどきして、しょうがない。何言われるんだろ…。

「……俺さ、のこと好きだよ」

「……えっ?」

思ってもみなかったことを言われて、顔が熱くなる。健は恥ずかしそうに俯いた。

「俺、ずっと隠してた。にフラれんのがヤで。でも、さっき剛に呼び出されて、全部聞いた」

「ぜん…ぶ…?」

が脅されてることも、痴漢にあったことも、泣いたことも。何か、悔しかった。俺が知らないこと、
剛が知ってて。俺の方が、と長い時間一緒にいるのに」

健の言うことを聞いてて、胸が熱くなってくる。

「剛に、自分のほんとの気持ち言わないでウジウジしてるバカに、のこと好きになる資格なんてない
って言われて。言い返したら殴られた」

剛に本気で殴られたの、はじめてだよ、と健は笑ってみせる。

「でも、それで目が覚めた。俺、言わなきゃって思った。このままじゃ、、誰かに取られちゃうから
ね」

健は私の手を握って、真っ直ぐに見つめてくれる。

「俺と、付き合ってください」

私の頬に、涙が伝った。嬉しかった。健も、私と同じ気持ちだったんだって。

「私も…健が好き」

健は嬉しそうに微笑んで、私を強く抱き締めてくれた。もう、1人ぼっちじゃないんだって、思った。も
う大丈夫だよ。健がいてくれるなら…。


次の日。健の家のチャイムを押すと、物凄い音がして、健が飛び出して来る。

「おはよ、健」

「おはよ」

恋人同士になって、はじめての朝。嬉しくなってお互い微笑を交わす。健が軽く私の頬に唇を寄せようと
した次の瞬間。

バババババババババ…

私達の背後にバイクが止まる。

「おはよう、、健」

「「ご、ごぉ!?」」

健と声が被る。そこには、バイクに跨った剛の姿。剛はにやりと笑う。

「一緒に行こっか、

「なっ…!?」

健の顔が青ざめて行く。剛はにやにや笑って、バイクを降りると、エンジンを止めて、私の手を握った。

「行こっ!」

「ひゃ…!?」

そのまま手を引かれて、剛と一緒に走り出す。

「待てっ!剛!お前、俺の敵か味方かどっちなんだよぉっ!!」

「敵に決まってんだろー!」

前途多難な私達の恋愛は、まだまだ続きそう。でも、守っててね?健っ。



あとがき

由里さん、どないでしょうか。(なぜか関西弁。)
ゴメンなさい!
学園モノなのに、学園じゃないような気がします。
しかも、痴漢多っ!!
予定では、もう1回合う予定でした(爆)
自分の文章力のなさに脱力。
こんな小説でも、受け取って貰えれば嬉しいデス;;
ちなみに、題名はカミセンの曲名ではナイです。
なんとなくです(爆)

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